福岡地方裁判所 昭和26年(ヨ)244号 決定
申請人 日本電気産業労働組合 九州地方本部
右代表者 執行委員長
被申請人 九州電力株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
申請組合より昭和二十六年七月十四日提起に係る苦情処理手続による労働協約の解釈運用の解決に至るまで被申請会社は希望退職者募集に関する行為をしてはならない。
三、理 由
本件申請事件で問題となつたのは被申請会社がその従業員であるところの申請組合の組合員に対し別紙希望退職者募集実施要綱に基いて為した希望退職者募集に関する行為が、被申請会社と申請組合との間に適用せらるる労働協約に違反するか否かということである。よつて按ずるに被申請会社は本件募集行為は結局本人の自由なる意思に基く退職希望者を募集しようというのであるから、これによつて被申請会社が本人を解雇してもこれは労働協約の第六第一項第一号本人の希望によるときに該当し、従つて被申請会社が申請組合の意見をきき又はこれと協議をする必要はないという。なるほど尤もな次第ではあるけれども、前示第六解雇に関する規定の精神に立脚して考えるときは、第一号に本人の希望によるときとあるのは純粋な積極的な本人の希望による退職の場合をいうのであつて、本件におけるように希望退職者募集実施要綱を掲げ大々的に退職希望者を募集して行うような解雇の場合をも含むと解すべきか否かについては多少の疑義がない訳ではない。又第六第一項第八号はその他会社及び組合が協議して決定したときには会社は解雇をすることができる旨規定があるが、これも被申請会社のいうように文字通り組合と会社が協議決定したならば会社はその者を解雇するというだけの趣旨であるかどうかについては疑義があり、前記解雇に関する規定の精神に照すときは或は申請組合のいうようにその他解雇に関する条項に規定のない場合に会社が従業員を解雇(第六解雇というのは一般的には会社の一方的な意思表示による場合を指称するが、ここに解雇という意味は当事者の合意による退職、休職期間の満了による退職、停年退職等を含む広い趣旨であると解する)せんとするときは必ず会社は組合と協議決定しなければならないという積極的な意味でないかという疑いの余地もない訳ではない。
若しそうだとすれば申請組合が本件募集行為を協約違反と主張するのも、むげに理由なしとして一蹴し去るべきものではないであらう。現に申請組合から協約第十五苦情に関する条項に基き昭和二十六年七月十四日苦情処理委員会に解決の申請をしているので、いずれは右苦情処理手続によつて前記解釈上の疑義その他協約の解釈の決定を見るであらう。このように考えてくると本件募集行為が協約違反であるか否かについて多少の疑義があり、然も現に苦情処理委員会に解決の申請がなされやがてはこの点の解釈が示される訳であるから被申請会社としても平和条項に関する協約の精神を尊重し協約の解釈適用に関する疑義の解決を俟つた上で、本件募集行為を実施すれば足ると考えられるから直に本件募集行為を実施しなければならないという程の切実な事情の認むべきものがない以上は当裁判所としては本件募集行為は苦情処理手続による解決をみるに至るまで、これを差し控えるのを相当であると認めた次第である。
(裁判官 野田三夫 丹生義孝 入江啓七郎)